※本記事の写真は、「神戸モダン建築祭2024」にて摩耶観光ホテルの内部が特別公開されていた時に撮影したものです。通常は許可なしでの立ち入りは禁止となっています。
朝もはよから神戸市の中央部に位置する摩耶山のふもとに来ております。摩耶山は六甲山系のひとつ。山頂にはこちらの摩耶ケーブルカーと、ロープウェーを乗り継いで登ることができます
ケーブルカーの創業は1925(大正14)年、山上にある忉利天上寺(とうりてんじょうじ)への参拝路線として造られたらしく、奈良の生駒ケーブルカーや信貴山のケーブルカー同様、当時は山上にあるお寺へ参拝する手段としてケーブルカーが建造されることが多かったのかな。そして高度成長期にモータリゼーションが到来し、バスや乗用車が普及したことで、ケーブルカーや地方鉄道は廃れていったと。こちらの摩耶ケーブルも例に漏れず、赤字路線と化して廃止の危機に直面したけど、地元から存続を求める声が相次いだため、神戸市が市運営の第三セクターに業務委託する形で今も経営しているとのこと。やっぱ地域の方々が声を上げるってのが大事なんやな
駅舎内には開業当時の写真が。年間44万人が利用していた時期もあったらしく、賑やかだったでしょうね。今でも一日の平均利用客は400人ぐらいいるようです
きれいに塗装されてるけどホームのこのイカつい鉄骨感、たまりません
このえげつない傾斜がおわかりいただけますでしょうか
ケーブルカーの乗務員席は相変わらずコンパクトでかわいい
出発したら早速、紅葉の景色が目に麗しく
レールの間でケーブルを巻き上げる鉄輪がまわってます。これがあるとケーブルカーって感じ
隧道にも突入!下手なアトラクションよりよっぽどテンションが上がる
さらに対向車との行き違いも!
短いながら複線区間が。写真見て気づいたけど、左右にはホームっぽい感じの場所もありますね。めちゃ山中やしさすがに駅はなかったやろうから、保安検査とかのための乗降場かな
このあたりでは車体下のケーブルが丸見えです。かっこいい
急斜面なので本当にずっと景色が良い。紅葉と街並みと海まで見える
たった5分でケーブルカーの終着地点、「虹の駅」に到着
本日はこちら、神戸モダン建築祭への参加。大阪や京都で先駆けておこなわれていた建築フェスが、2023年からついに神戸でも開催されるようになって、地元民ワイ歓喜。NPO法人を中心とした有志が集まって運営してくださっていて、おかげで普段見れない建築物が見れるので心から感謝
なんといっても今日は摩耶観光ホテルの内部に潜入できるわけです。ケーブルカーの駅から、すぐにその姿が見えました
摩耶観光ホテル、通称マヤカンは、摩耶ケーブルが1925年に開業した5年後、温泉ホテルなどの複合施設としてオープン。第二次世界大戦時に他の多くのケーブルカー同様、摩耶ケーブルも資材供出のため運転休止となり、ホテルは閉鎖。戦後に改装して再オープンするも、台風などがあって1993年に閉業。1995年の阪神淡路大震災でケーブルカーが被災し営業停止となったため、摩耶観光ホテルは山の中で忘れ去られ、人知れず朽ちていくだけの存在となった…が、廃墟ブームによって再び注目を浴び、2021年には登録有形文化財になったという
私も廃墟好きとして存在は知っており、マヤカンの外観を見学できるツアーがあると聞いてたのですが、今回は通常非公開の3、4階にも入れる特別プログラム。当たったらラッキーと軽い気持ちで抽選に応募したら当選したので、そんなに応募なかったんかな?と思ってたら、ツアー案内の方に「あなたたちはすごい倍率のなかで当選を勝ち取りました」と言われ、のっけからテンション爆上がり
ヘルメットをかぶり、いざマヤカンへ。かつてはきれいに舗装されていただろう道も、すっかりボロボロに。廃墟に向かってるって感じがして期待感が高まりまくる
ようやくマヤカンの全容が見えてきました
入り口に至る道もコンクリートが剥げ草木に侵食されボロボロに
海辺の街らしく船をモチーフにした建築および改装だったもよう。山中にいながら海を感じる、とても神戸っぽい雰囲気
いきなり4階部分から入ることになります。いかにも山の斜面に建てられた山岳ホテルらしい
さっそくシャレた照明器具に遭遇
4階ホール。ここでは芝居や映画が上映されたそう
正面舞台をはじめ内装全体が、アールデコ調の美しい意匠。建築祭だけあってツアーガイドに建築関係の方がいらっしゃったので、建築デザインについてもいろいろ聞けてありがたかった
一種、神殿のような雰囲気。外界の紅葉とあいまって良い景色を作り出してる
床にはコンクリートやガラスの破片が散らばり、ここが廃墟であることを思い出させてくれる
山中だけあって、植物の絡まりっぷりが激しく、人工物が自然に呑み込まれていくさまが大好きな私は大興奮
蔦が内部のあちこちにまで侵入しています。かように自然の力は恐ろしい
何年も放置されていた廃墟なので、歪んで崩れてかけな箇所も多々あり、こんなふうに補強されていたり。廃墟を保存していくというのはとても難しいことだと考えさせられる、単純に補修・改築してしまったら廃墟としての美しさや価値を失ってしまうし
かつては不法侵入者が絶えなかったようですが、今はセキュリティーを装備。これも廃墟を保存していくための試み
古びた瓦礫と生命力あふれる新緑。とってもラピュタ感(大好き)
床のタイルが美しかった場所
崩壊したドアの上に、こちらも崩壊した照明器具が
かつては華やかな絨毯張りだったことを想像させる
確かにここにはかつて人の営みがあったと感じられる置き土産がいろいろ
まるで一枚の絵画みたいなありさま
かろうじて残っている照明も。ここは食堂だったとのこと
とくにこの食堂からの眺望はすばらしかった
柱のデザインも凝ってる
グランドピアノは廃墟になったあとにドラマか映画かの撮影で置かれたものらしいですが、あまりにもマッチしている
前掲のパブリック・ドメインの古写真でわかるとおり、昔は建物周囲の木々が伐採されていたので、きっとこの窓から灘の街並みや海が一望できたんでしょうけど、今のように色づいた木々に一面覆われているのもまた美しい
こちらは古いストーブらしい。「ユニヴァース」っていうのが商品名?飛行機と富士山のような模様が見てとれる
半開きのドアの向こうには階段と、公開されていない2階フロアが見える
室内の崩落が激しかった場所。登録有形文化財として保護はしていくものの、基本的には建物の崩壊は止められないし、自然に任せるままになるそうです。朽ちていく美を愛する者としては、それもまたよし、すべてのものがたどりゆく運命…
昔ながらの浴場
マヤカンは晩年には学生向けの合宿所としても使われていたようで、今回のツアー参加者の中には何十年も前にここに泊まったことがあるという方もいらっしゃいました
華々しい模様の入った床にも無惨な亀裂が
ここはかつて展望風呂があった特別室とのこと
ここも危ないため立ち入り禁止だった部屋。崩れかけの照明器具が見えます
時間いっぱいまで中をぐるぐる歩き回ってましたが、ちょっとした部分の意匠にもこだわりを感じてうっとり。荒廃してなお美しいというのは、デザインのゴールのひとつかも
手すり部分も凝ったデザイン。往時はかなり豪華な内装やったんやろうなと想像できる
屋根が崩れかけの廊下、今はほぼ屋外状態やけど、一応ここも屋内やったんかな
温泉施設だったころは煙突からモクモクと煙が出て、山の軍艦ホテルと呼ばれていたとのこと
バルコニーからは灘の街と海の見事な眺望が。戦時中には大空襲で焼け、阪神大震災でも甚大な被害が出た街の景色。多くの困難を乗り越えて復興してきた神戸、やっぱり自分が生まれ育った地ということもあって、知れば知るほどいとおしくなる
今まで廃墟自体はたくさん見てきたけど、内部に入ったことは当然なかったので、本当にすばらしい経験をさせていただいた。ツアーを開催してくださった方々、建築祭の方々、本当にありがとうございました
さて、せっかく摩耶山の中腹まで来ているので、ロープウェーに乗り継いで山頂を目指します。ケーブルカーとロープウェーを乗り継ぐって結構めずらしいんでは、と思ったけど箱根や比叡山にもあるようで、比叡山は関西圏やしそのうち行きたい。その前に、六甲山に長年運休で放置されていたロープウェーがあってついに撤去が決まったらしいので、山中に残されたままの駅舎や支柱を見に行っておきたい
摩耶ロープウェーに戻ります。駅舎内ではロープウェーの歴史の展示が。摩耶ロープウェーは、軍事転用で休業していた摩耶ケーブルカーの再開とともに、1955(昭和30)年に操業開始。写真からもわかるとおり、どえらい眺望のまるで空中散歩
ロープウェー開業時に山上遊園地もオープンしたらしく、まるで生駒山上遊園地。あっちは今も生き残ってるからすごい
摩耶観光ホテルの写真も。下の「大食堂」の写真が、グランドピアノがあった場所。こうやってみると天井が大変オシャレ
というわけでロープウェーに乗り込みます
乗り場から見える景色がすでにすごかったんですが
ロープウェーに乗ってからの景色はさらにすごい!まさしく空を飛んでるみたい
対向車と空中ですれちがい。なんとも絵になる光景。ポストカードとかになるやつ
年季の入った駅舎の「星の駅」に到着
ここからの夜景は日本三大夜景のひとつらしく
駅舎から出たところにある展望広場は「掬星台」というオシャレな名前がついています。神戸から大阪湾までが一望、そりゃ夜景もすごそう
おそらくポートアイランドと神戸空港?も見える。天気に恵まれてよかった
国立公園摩耶山の文字
園内にはこんなものも発見。阪神大震災で倒壊した鳥居を再利用したベンチとのこと
恐ろしく悲しい記憶も、今は市民の憩いの場の一部に
ここまで来たならお参りしていこう天上寺、ということでさらに山道を進みます
わ〜紅葉がきれい…なのはいいが、本当にこの先にお寺があるのか不安になる道幅。このへん一帯にかつて遊園地があったらしく、わずかに痕跡も残っているそう
ようやく見つけた山門!お寺、本当にあってよかった…ひとけもまったくなかったし、ちょっと不安になる道のりでした
忉利天上寺は、大化2(646)年に孝徳天皇の勅願によりインドの高僧が開創、のちに弘法大師空海が渡唐したとき、釈迦の生母である摩耶夫人の尊像を持ち帰りここに安置したことから、この山を「摩耶山」と呼ぶようになった、とのこと。すぅーごい歴史あるすぅーごいお寺だった。やっぱ昔は山の中って神様仏様、妖怪やもののけ、人の手の及ばむもののすみか、聖域とされてたんやな
境内は石積みのなんか、石庭?なにか明らかに意図をもって石というか岩が並べられていて、不思議な感じ。あんまり他の寺社仏閣で見たことないかも
そう、摩耶といえば軍艦の名前でもあった、というか軍艦が摩耶山にちなんで名付けられたんですが。「火垂るの墓」の清太の父親が乗艦していたのが、この摩耶。神戸出身っていう設定やったから摩耶になったのかな
しかし山の上にある寺ということは、参道もほぼ山登りでして。岐阜城を思い出す…城や寺社仏閣に向かうためにキツい山登りをした時はいつも思い出す岐阜城…
ようやく辿り着いたお堂の前には枯山水的なものが
こちらにも。空の景色とあいまって、あの世というか天界っぽさがある
かっちょええ像。「宝石の国」だぁ
かわらけ投げでもしそうな拝所
本堂も立派。天上寺は女人高野とも呼ばれ、かつて女人禁制だった高野山のかわりに女性の参拝を受け入れた真言宗のお寺を女人高野と言うらしく、女性へのご利益アリとのこと
無事参拝も済み、ロープウェー「星の駅」まで戻って、併設のカフェでカツカレーとチーズケーキという贅沢ごはんをいただきました
カフェからの眺めも抜群。目がいい人なら、大阪梅田のビル群や天王寺のハルカスも見えそう
では地上へと戻ります
くだりの景色も見事。左手の山中には摩耶観光ホテルの姿も。初めて訪れた摩耶山、いい場所でした
おしまい
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