大阪の歓楽地めぐり、味園ビル・飛田新地・松島新地

2024年7月6日土曜日

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大阪ミナミで飲み歩いてる者なら、一度は目にしたことのある味園ビル。この向かいには私のお気に入りのラブホ「アルプス」があって、こちらもめちゃくちゃ味のある良き建物なんですが、実は味園ビルの方には入ったことがなく、いつかビル地下の味園ユニバースってライブハウスにも行きたいなー
などと思っていたところ、なんと味園ビルが今年いっぱいで閉鎖になるっぽいという噂を聞き、こうしちゃおれん!今のうちにこの目で建物内部を拝まなければ!!ということで行ってきました

味園ビルといえばな螺旋スロープ。鮮やかな朱赤と欄干のデザインがなんとも艶っぽい

ほらもう素敵!吊り下げ照明も、今じゃあんまり見ないデザイン。どことなく十三のキャバレー「グランドサロン十三」を思い出させる雰囲気。「グランドサロン十三」は1969(昭和44)年創業で、味園ビルは1955(昭和30)年に建てられたらしいので、味園ビルの方がだいぶ先輩。建てられてから70年近くたってるとは

2階はバーやスナック、なんの店かよくわからない謎の店が集まる謎のフロア。この時はまだ夕方だったので、開店してる店は少なめでした。それでもすでにたまらん空気感

こちらは3階。かつて3階から上はホテル営業をしていたらしく、部屋の写真がいくつか残ってました

2〜3人で泊まれそうな結構広い部屋、そしてインテリアがすばらしい。どの部屋も照明がいちいちすごい。ホテルは2019年まで営業していたらしく、泊まってみたかったなー!

ホテルフロアは営業してないはずなのに、スタッフさんなのか人の出入りがあり、入り口には素晴らしいシャンデリアが。すごいなぁ、もうこんなの作ってくれるメーカーさん、なかなかないんやろな。前述の「グランドサロン十三」でも、替えがきかない照明器具やソファとかが多くて、メンテナンスが大変とおっしゃっていたので

非常ドアと電灯もなんか凝ってる。とてもバブリー

日が暮れてきて、さらにライトアップが映える時間に

20時ごろになれば、夜はこれからが本番とばかりに「ユニバース」の文字も輝きます。左上には「アルプス」のネオンサインも。マジでここだけ昭和

夜が深まるほどに一層なまめかしい


謎の店がひしめく2階フロアに戻ってきました。夕方に来たときより、たくさんの店の明かりが灯っていて大興奮

ここはラブドールと相席できるお店。ラブドールちゃん、お顔以外は触ることができます。めっちゃふにふにしていた

我々の席のラブドールちゃんは一番歴の長い子らしく、関節とかがボロボロになっていて哀愁が漂っていました



店内の雰囲気が中華系サイバーパンクで大変良かった。ヨコハマ・ディビジョンにもこういう店ありそう。中華服を着たMTCにいてほしい場所

店の看板を見てるだけで楽しい、それが味園ビル


この退廃的かつ淫靡な雰囲気。たまりません。ハマに似合うなぁ〜〜!!



そして一際あやしげな雰囲気をかもしだしている、こちらのお店にもイン。ドアが固めに閉まっていて一発では開けにくいですが、めげずに開けてください

ウワ〜〜ッ…と思わず息を呑むような耽美空間!お店の公式Xで写真は見てたけど、実際入ってみると思った以上に赤い。とても赤い。なにもかも赤い

赤すぎてお酒もぜんぶ赤く見える。ソファのファブリックも大変よかった、どこで見つけてきたんやこの素敵なインテリアたち

内装のすごさもなんですが、この店のポイントはなんといっても、日本にほとんどないようなレア酒の数々と、壁の一角を埋め尽くす奇書たち

本棚にも額縁が取り付けられてたりフットライトがあったり、細部のこだわりがすごい

本のラインナップがめちゃくちゃおもしろくて、どれもこれも読みたくなる。まるで大分別府にある「書肆ゲンシシャ」のよう

それにしても、2階フロアには本当にたくさんのお店の看板に光が灯ってました。DJパーティーしてる店があったり、映画かなんかの上映会してたり、謎に大人数がぎゅうぎゅうに詰まってたり、なんもないドアにただ会員制って貼られてたり、お葬式バーがあったり、あまりにもミステリアス
他にもお邪魔したオタクバーのオーナーは、バイトで入ってお店を引き継いだという方で、長年味園ビルで働いていて「もう味園から卒業したい」とおっしゃっていたけど、そう言いつつも居着いてしまう、またここに戻ってきてしまう魅力がこのビルにはあるんやろな。カオスで雑多やけど、どんな人でも受け入れてくれそうな空気感がある

こちらは向かいのラブホ「アルプス」上階から撮った、味園ビルの屋上。ニョキニョキとなにやら煙突みたいなものが生えている。ビルの屋上ってなんでこんなにワクワクするんでしょうか

千日前通りにひしめく灯り。なんばといえばグリコの看板がある道頓堀の夜景が有名やけど、このへんの下町感たっぷりの景色、すごく好き

右手奥には道頓堀ドンキの観覧車が

すっかり暗くなった味園ビル。この光景もいつまで見れるか

そして味園ビル地下にある元キャバレー「味園ユニバース」にも行ってきました。ライブなどで使われることの多いユニバース、この日は出店あり生演奏ありの夏祭り的イベントが開催

入り口から入って、すぐさま魅せられてしまった。地下に向かって曲線をえがく階段、謎の光るオブジェ

あとから気づいたけど、「universe=宇宙・銀河系」をイメージした内装なのかも。謎のオブジェもなんか宇宙…っぽいので。天井のライティングも天の川っぽい

こちらがステージと、その前のダンスフロア。天井からぶら下がる、惑星をイメージしたっぽい球体オブジェが本当にきれい

大小さまざまな球体オブジェが、音楽に合わせて光る、夢みたいな空間

バーカウンターにもでっかい星が

フロアの天井もなんかすごい。巨大天体望遠鏡の一部的なイメージ?

壁が鏡張りなので光が反射して、より宇宙感が高まっております



こういうインテリアたちひとつとっても、もう今じゃ作られてないやろなぁ感。あまりにも貴重な昭和の遺産



フロアの床にはおそらくスタンディングライブとかでお客さんの位置を示すマークが。こちらも宇宙を感じさせる幾何学模様

このでけぇ構造物の中にも球体の照明が入ってます。すごい



この日は夏祭り的なイベントだったので、管弦楽のバンドによる演奏もありました

ステージ端っこのわかりにくいところでも、七色に光りながらくるくる回る照明が。健気でかわいい

バンド演奏にあわせて、好きに踊る客たち。ここだけ昭和のダンスホール。やっぱり歌ったり踊ったりって人間の原初的な衝動や喜びなんやな

バンド演奏が終わると客たちもフロアから一旦はけて、思い思いにお酒や食事を楽しむタイム

受付ブースでさえこの意匠。どこもかしこも飽きさせないデザイン

そして喫煙室。現代じゃ考えられない広々空間!空調もしっかりしてて、全然煙たさがない

喫煙室の窓ガラスからもフロアが覗き見れます

こんな感じで、オブジェクトの隙間から。本当にどこもかしこもデザインが凝ってておもしろい

そりゃ動画も撮っちゃう。管楽器隊による盆踊りのリズムに、自然と手拍子を打ち鳴らし、輪になって踊る人たち…昭和遺産のキャバレーで過ごす令和の夏、忘れられない時間になりました




味園ビルが昭和の遺産なら、こちらは大正時代からの遺産。かの有名な遊郭「飛田新地」の門のひとつ
飛田新地は、あべのハルカスのある天王寺や通天閣のある新世界から歩いてすぐ、西成区山王に位置する風俗街。かつて難波にあった遊郭が火事で全焼し、大正5年に現在の場所に移され、昭和初期には妓楼200軒、娼妓が3000人近くいたとか。愛人を殺して性器を切り落とし持ち去ったことで有名な阿部定も、一時この遊郭にいたというから驚き
現在でも飛田新地には風俗店が軒を連ね、お昼すぎには店目当ての男の人たちがうろつき始めており、私のように女一人でブラついてるとお客さんにもお店の方々にも迷惑になるため周辺だけをグルリとめぐってみました

北門のすぐそばにあった龍神さん
このあたりは、ブラックマヨネーズの漫才で「上本町でボーリングの球落としたらゴロゴロ転がって天王寺まで行ってまうやろ!」と言ってるように、上町台地の崖沿いにあるため、台地から水がくだり、昔から水脈や池が多かったらしい。水のあるところに龍神信仰あり、というわけで地元民からの信仰が厚く、第二次世界大戦の大阪大空襲時、ここら一帯は被害が少なかったのも龍神さんのおかげとのこと
いいですね、こういう謂れ。他にも2か所ほど、龍神さんのおかげで火がここまでこなかった系のお話が残ってる場所を大阪市内で見たことがある

飛田新地の周縁をなぞるようにして、古い商店街が続いています。この飛田本通り商店街は、北側が新世界につながっていて、まさしく大阪の下町情緒たっぷり。個人的には地元神戸で、父方の祖母のお店があった古い商店街を思い出す。阪神大震災ですべて潰れてしまいましたが

絶妙に昭和感のあるいいフォント

かつて飛田新地は高さ4mほどのコンクリート塀、通称「嘆きの壁」で囲まれていたらしく、今も部分的に残されています。空き地の奥に見える塀も、その一部

こちらの方がよりわかりやすい。コンクリート塀の向こう側が、飛田新地内です。今はアパートや観光客向けのホテルも建ってるけど、往時は塀の向こうには遊郭関連の建物しかなかったってすごい

塀の手前のトタン屋根の下には地蔵尊がありました


こちらの奥にもコンクリート塀が。かつては新地内に女たちを閉じ込めていた「嘆きの壁」も、今は風化を待つばかり

こちらは飛田新地の北側をなぞる新開筋商店街。照明といい店舗看板といい、とても味わい深い




そして飛田新地と同じく、大阪で堂々と風俗街が形成されている場所のひとつが「松島新地」
明治時代に築かれた「松島遊郭」に端を発し、一時は関西で最大規模にまで成長するも、やはり大阪大空襲で全焼。現在の九条駅近くに場所を移し、営業再開したとのこと
ちなみに近くには「新町遊郭」と呼ばれる、大阪で唯一江戸幕府公認だった遊郭があったんですが、こちらも空襲で焼け、戦後の区画整理によって今は遊郭跡らしき雰囲気はほとんど残ってません。たまたま通りがかった時、かつて遊郭に入るための橋があった場所に大きな記念碑と案内板が立っていたぐらい

一方、松島新地は現役なだけあって今も色っぽい景観を残しています。飛田新地と同じく「料理組合」というのが、そういう営業をおこなうこともある料亭をまとめている組織。「橘」という看板、これも飛田と同じくそういう料亭であることを示す特徴的なデザイン。真白い四角に店名だけが書かれてて、パッと見なんのお店かわからない。こちらもお店やお客さんの邪魔にならんよう早朝に訪れました

こんなに堂々と「麻薬」の文字を見るの、大阪でも西成とか新世界ぐらい

特徴的な五叉路に大変テンションが上がった。左手側もずらっと特殊経営の料亭が並びます

なんて情緒あふれる佇まい…いっぺん中に入ってみたい…

角地にあったこちらの建物はとくに目を引かれました。2階の欄間もいいし、壁の意匠も凝ってるのに派手すぎず美しい

その向かいの建物も、なんとも独特の雰囲気

堂々と掲げられた、十八歳未満お断りの札。内部はどんなふうになってるんやろ。う〜〜っ入ってみたい!

緑と黒の豆タイルがキュート

奈良の生駒新地もそうやったけど、こういう建物は一種独特の風格と色気がある。それぞれに個性があって、見てて飽きません

通りがかった神社の玉垣に「南地 南花街組合」の文字を発見してニヤリ。たぶんミナミの南地五花街のこと
今はなくなってしまった遊郭やお店も、こんなふうに神社に名前が残ってるパターンがたびたびあるようなので、今後も注目して見ていきたい

そして松島遊郭から木津川沿いに北上した場所に、こちらも雰囲気抜群の喫茶店が。前から行ってみたかったけど、休日はいっつも人が並んでる人気のお店でなかなか入れなかったので、朝に行ってみました

元は遠く石川県金沢にあった古い純喫茶を移築したとのこと

インテリアもその古い喫茶店のものを使用しているらしく、なんともいえないレトロな空気感

おてふき可愛い。食器のひとつひとつにもこだわりを感じる

店の奥には大きな焙煎機も

小さな庭もあって喫煙可。お店オリジナルのマッチをいただきました。古いマッチ箱が好きで、骨董市とかフリマでお気に入りを見つけては買い集めてるんですが、こういう喫茶店独自のマッチもたまらない

庭から隣の建物の様子をのぞけたけど、草が繁茂しまくっててカオス。自然が人工物を呑み込んでいってる光景はいつ見ても良い

注文票というかレシートというかの裏に、コーヒーとはなんぞやみたいな小話が書いてあったので、持って帰っていいですかとお聞きして記念にお持ち帰り

喫茶店のあるこのあたりは旧川口居留地と呼ばれる地域で、幕末に開港したのち外国人のための居留地として造成され、洋食店やカフェができたりと明治初期の文明開化の象徴となっていたけど、地理的要因によって貿易港としての役割は神戸に譲ったんだとか。そしてその当時の建物も空襲で全焼し、今は戦後築の古い建物が残っているとのこと

貿易港としての役割が衰退したあと、川口居留地にはキリスト教の宣教師たちが住みつき、教会堂をはじめ病院や学校を建設したらしい
そのうちのひとつが、この川口基督教会。もとは大正2年に建てられた、見事なゴシック風のレンガ造り
周囲の建物と同じく空襲で一部焼失したが修復、さらに1995年の阪神大震災で塔が倒れるなどの被害が出て、取り壊しになるかというところ寄付や助力によって再建。今も居留地時代の雰囲気を残す、ほぼ唯一の建物とのこと

歴史あるレンガ造りの隣に並ぶのが、コンクリート打ちっぱなしビルというのもまた大変良い。大阪にはもう何年も住んでるけど、まだまだ歩いて見て周りたい街や建物がたくさんあって、これだから街歩きはやめられない

おしまい

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